■Thalma de Freitas(Vo) タルマ・ヂ・フレイタス。TVグローボの女優で、ソロ歌手としてのキャリアもある。 [別Profile:カシンのプロデュースでソロ・アルバム『タルマ・ヂ・フレイタス』を発表したオーケストラ・インペリアルのフロントの内の1人。女優でもある。同アルバムには、ウィルソン・ダス・ネーヴィスとベベートが参加し、『フューチャリズモ』にはボーナス・トラックとして収録のカシン作「トランクイーロ」も収録されている。]
■Wilson das Neves(Per,Vo) ウィルソン・ダス・ネヴィス。オルケストラ・インペリアルの長老。作曲家で歌手としてもソロ・アルバムを1枚出しているけれど、ブラジル音楽史上で最も偉大なドラマーのうちの1人。ドラムでサンバのリズムを叩き出したパイオニア。500組以上のMPBのアーティストと録音を残したり共演したりしている。80年代からシコ・ブアルキのバンドのメンバーでもある。:『シコ・ブアルキ/カリオカ・アオ・ヴィーヴォ』 [別Profile:マルセロD2をして、“完璧なリズムをたたき出す”と言わしめた伝説的ドラマー。声にも味があり、今はヴォーカリストとして活動することも多い。オルケストラ・インペリアルには、“長老”として、ゲスト・ヴォーカルとしての色が強いが参加している。]
◆Tr01 ME DEIXA EM PAZ【ミ・デイシャ・エン・パス(放っておいて)】(Monsueto/Ayrton Amorim) 1951年に録音され1952年のカーニヴァル・ヒットとなった「ミ・デイシャ・エン・パス」。ヴォーカルをとるのは、ファションデザイナーでロシア系の色白美人(!)のニーナ・ベッカー。1919年生まれで「オー・アブリ・アーラス!」を初めとして数多くのカーニヴァル・ヒットを残したリンダ・バチスタの録音が当時のヒットとなった。後に、ミルトン・ナシメントも『クルビ・ダ・エスキーナ』で録音している。
◆Tr02 SEM COMPROMISSO【セン・コンプロミッソ(何の約束もなしに)】 (Nelson Trigueiro/Geraldo Pereira) シコ・ブアルキが1974年のアルバム『シナル・フェシャード』で取り上げ、ジョアン・ジルベルトが1985年のスイスのモントルー・ジャズフェスティバル出演時に取り上げ、その録音盤にも収録されている「セン・コンプロミッソ」。ヴォーカルをとるのは、モレーノ・ヴェローゾ。1940年代~50年代にカーニヴァル・サンバの作曲家として活躍した1918年生まれのジェラルド・ペレイラの作品。当時のラパ地区は、マダム・サタンやノエル・ホーザといったボヘミアンのサンビスタのたまり場だった雰囲気が残っていた。
◆Tr03 OBSESSAO【オブセサゥン(執着)】(Milton de Oliveira/Mirabeau) 1955年にサンバやマルシャといったカーニヴァル・ソングを得意としていた黒人女性歌手のカルメン・コスタによって録音され、1956年のカーニヴァル・ヒットとなった「オブセサゥン」。本アルバムでヴォーカルをとるのは、ホドリゴ・アマランチ。ミラベアウとミルトン・ヂ・オリヴェイラのコンビによる作品で、同年にヒットした「ファラ、マンゲイラ」もこのコンビによる作品であった程の当時の売れっ子コンビだった。“多様なブラジル”をキャリアを通じて表現していた名歌手クララ・ヌネスも1979年作『エスペランサ』で本曲を取り上げていた。
◆Tr04 NAO FOI EM VAO【ナゥン・フォイ・エン・ヴァゥン(無駄ではなかった)】(Thalma de Freitas) オルケストラ・インペリアルのスピリットを要約するような過去と未来がミックスされた曲。ドメニコのドラムの上で、タンボリン、スルド、クイーカや電子パーカッションがリズムを刻む。ヴォーカルはタルマ・ヂ・フレイタスで、彼女のペンによる作品。別れについて歌う同曲は、実生活でオルケストラ・インペリアルのメンバーでもあるステファン・サンジュアンとの離婚と重なるが……。日本盤のボーナス映像では、女優としても大活躍している“ブラック・ビューティー”なタルマ・ヂ・フレイタスが本曲を熱唱する姿を見ることができる。
◆Tr05 ERECAO【エレサゥン(勃起)】(Domenico/Rubinho Jacobina/Pedro Sa/Nina Becker/Max Sette/Sandra de Sa) 大人の男女が寄ってたかって作った「○起」について歌うポップ・ソング。Voはマックス・セッチ。オルケストラ・インペリアルの賑やかなライヴの雰囲気をもった曲だ。歌詞の意味を知って曲間のヴァーヴを聞くと、ヴォーヴの音が「○起」の音に聞こえてくるというユーモアたっぷりの曲。
◆Tr07 O MAR E O AR【オ・マール・イ・オ・アール】(Domenico/Kassin/Rodrigo Amarante) 穏やかな雰囲気、ハワイアン・ギターの響き、遠くで鳴るコーラス、メロディー・ラインに添えられたヴィブラフォンの音。ホドリゴ・アマランチがどことなくモノ憂いげな歌声で、愛と、海や大気といった自然との関係を歌うゆったりとしたボレロ。ブラジル盤では1曲目に置かれた。バンドの核となるメンバーたちのペンによる名曲。
◆Tr08 JARDIN DE ALA【ジャルヂン・ヂ・アラー(アラーの庭園)】(Moreno Veloso/Quito Ribeiro) モレーノが、バイーアをルーツに持ちリオで活動するSSWのキト・ヒベイロと共作した曲。キトの1st『ウマ・コイザ・ソー』 のプロデューサーにはペドロ・サーも名を連ねていた。“ボッサ市場”と言えるような曲で、アルバムのメランコリックな雰囲気を決定づけている。
◆Tr09 RUE DE MES SOUVENIRS【リュ・ドゥ・メ・スヴェニール(記憶の街路)】(Wilson Das Neves/Stephane San Juan) 長老ウィルソン・ダス・ネヴィスと、フランスからやってきたパーカッショニスト、ステファン・サンジュアンとの共作曲。フランス語で歌われる。タルマ・ヂ・フレイタス作曲のTr04「 NAO FOI EM VAO」への回答とも受け取れる曲を、タルマ・ヂ・フレイタスとステファン・サンジュアンがデュエットする。粋だ。「ステファンが曲を作ったの。私たちは少し前まで結婚していて、曲ができる過程をずっと見ていたのよ。彼が私に見せてくれて、私は歌詞を覚えたわ。いいできでしょう?」(タルマ談)
◆Tr10 ERA BOM【エラ・ボン(昔はよかった)】(Wilson Das Neves/Max Sette) Voは、ウィルソン・ダス・ネヴィスとマックス・セッチのデュオで作曲したのも両者。ふっきれてしまった昔の恋を、老若のデュオで軽快に懐かしむ歯切れのよいサンバ。日本盤のボーナス映像で、長老ウィルソン・ダス・ネヴィスと、インペリアルきってのイケメンのマックスがニコヤカにデュエットする映像をみることができる。
◆Tr11 IARA IARUCHA【ヤラ・ヤルッチャ(開っきぱなしのヤラ)】(Nelson Jacobina/Tavinho Paes) ライヴでも頻繁に演奏してきたので、ライヴに通うリオの若者の間ではお馴染みの曲。ネルソン・ジャコビーナが詩人のタヴィーニョ・パイスと共作したこの曲が誕生したのは80年代初頭。キューバ、プエルトリコ、トリニダーヂを旅する「開っきぱなしヤラ」について、カリビアンのリズムに乗って歌われる。ヴォーカルは、ホドリゴ・アマランチ。
◆Tr12 ELA REBOLA【エラ・ヘボラ(彼女は揺れ動いて)】(Nelson Jacobina/Jorge Mautner) オルケストラ・インペリアルと相思相愛で“パトロン”的存在の、トロピカリアを生きた歌う知性「ジョルジ・マウチチネル」と、ネルソン・ジャコビーナとの共作曲。人なつっこいモレーノの声質を活かして聞かせる穏やかで心地よい佳曲。「宮廷のオーケストラ」という名に相応しい余裕のある優雅な演奏だ。
◆Tr13 SUPERMERCADO DO AMOR【スーペルメルカード・ド・アモール(愛のスーパーマーケット)】(Bartolo/Jorge Mautner) アルバム中最も賑やかな曲。ヴォーカルは、ニーナ・ベッカー。語り部分は、Tr12 「ELA REBOLA」の作曲者ジョルジ・マウチネルがゲスト参加し、冗談か本気かわからない調子で決まり文句を言っている。サンバのリズムに70年代ロックのアレンジ、それにマウチネルの語りと、トロピカリズモを余裕たっぷりにリファレンスした曲。
◆Tr14 POP CORN【ポップ・コーン】(Gershon Kingsley) 電子楽器をポップスの世界に大胆に取り入れたガーション・キングスレーのオリジナルで、「ホット・バター」のモーグを大胆に使ったアレンジで世界的なヒットとなった曲。エレクトロ・ミュージック史に残る人気曲を、オルケストラ・インペリアルは管楽器の強みを活かしパワフルにカバー。
◆Tr15 DE UM AMOR EM PAZ【ヂ・ウン・アモール・エン・パス(平和の愛)】(Domenico/ Delcio Carvalho) ニーナの抑制の効いたヴォーカルで歌われる⑮は、ギル・エヴァンスのアレンジような重層的なホーンの響きで静かに語りかけてくる。愛の性質と、愛の終わりという普遍的なテーマを歌いながらも、哲学的な世界をもつ。全ての面で完成度の高い名曲。本曲を作詞しているデルシオ・カルヴァーリョは、イヴォニ・ララとの共作でも知られるSSW。