●アルゼンチン・ロック界の鬼才が、久々のオリジナル・アルバムを発表。しかも2枚組24曲という大作だ。1枚目は全曲自作曲(共作を含む)。パット・メセニーとの競演や近年のブラジル音楽への傾倒とは違い、原点に立ち返ったかのようなAORに仕上がっている。ざっくりとした荒い質感のフォーキーなバンド・サウンドと、抑え気味のヴォーカルとの相性も抜群。アカ・セカ・トリオのアンドレス・ベエウサエルト(P、Key)やパーカッション奏者のファクンド・ゲバラといったサポートも力強い。2枚目は、チャーリー・ガルシアやアタウアルパ・ユパンキから、ビートルズのメンバーのソロ(レノン「Jealous Guy」「Love」、ジョージ「Isn't It A Pity?」、ポール「Junk」)、スティング、ニック・ドレイクまでカヴァー曲がずらりと並ぶ。いずれも特に奇をてらうわけでもなく、真摯に楽曲と対峙した好感の持てるヴァージョンばかり。大人のロック・エン・エスパニョールを聴きたいという方には、是非おすすめしたい。[月刊ラティーナ09年2月号掲載]栗本 斉
アカ・セカ・トリオ等注目の若手を多く輩出するF.タレス主宰Imaginary South Recordsレーベルよりまた新たな逸材が登場。マリア・エリアとディエゴ・ペネラスのデュオで、2人はブエノスアイレスの音楽学校で知り合った仲間で、マリアは現代フォルクローレ歌手のシルビア・イリオンドに歌唱を学び、更にクラシックの声楽も本格的に勉強したり、タンゴバンドでのボーカル参加経験もある実力派。ディエゴは左利きのギタリスト、コンポーザー、ピアニストで、トゥクマンのベテランギタリスト、フアン・ファルーや、エントレリオス州出身のマルセラ・パッサドーレ、カルロス・アギーレなど現代フォルクローレの優れたアーティストとの共演経験も多く、楽曲を多数提供するなど注目すべき若手。近年のアルゼンチン・フォルクローレに共通するモダンなサウンド、独特の浮遊感と美しいハーモニー、垢抜けた都会的サウンドと民族的リズムの調和が実に美しい秀逸アルバム。アートで温かみあるジャケットのオブジェはディエゴの父ウーゴ・ペネラスの作。(07年9月号掲載 texto por タニィ) =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
ここ最近、現代のパジャドールさながらにギターを背負った若手シンガーソングライター達の活躍が目立つブエノスアイレス・ポップス音楽シーン。その中でも異彩を放つのが「歌い手フアニート」ことJuanito el cantorだ。本名フアン・イグナシオ・セラーノはブエノスアイレス州カステラル出身で、本作が1st.アルバムとなる。40曲近くデモを作った中から選りすぐりの13曲を収録、アルバムコンセプトはTrack4に代表される「子どもの視点」。幼き頃大切だったものを取り戻そうと意味を込めて、楽しかった子ども時代を髣髴させるような無邪気なサウンドづくりや遊びが散りばめられ、なんだかほっとさせられる。その反面、強い調子のボーカルとギターに時折エゴイスティックなほどの強い個性も顔を覗かせる。彼自身、絵を描くこと鑑賞することが好きで、CDジャケットやインターネット上で見られるPV、ライブ映像のバックにイメージイラストを配し、トータルにフアニートのめくるめく世界を展開。ちらりと見せる緻密で美しいサウンドに将来性を感じさせる。(07年8月号掲載 texto por タニィ) =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
フアン・カルロス・バグリエット、フィト・パエスらとの活動で1980年代初頭に頭角を現したロサリオ出身のシンガー・ソングライター、シルビーナ・ガレーの新譜。これで自己名義のアルバムは9枚目(1989年のバグリエットとの共演アルバムを含む)らしいが、前作「私たちの聖なる言葉」から実に12年ぶりのアルバムとなるそうだ。カエターノ・ヴェローゾの本の中で「最もカエターノ作品をうまく歌う女性歌手の一人」に挙げられているそうだが、確かに安定感ある歌唱、力まずさわやかな歌声はベテランらしい。ディエゴ・クレメンテのシンプルな伴奏もそつなく、良質のポップス・アルバムとなっている…のだが、きれいに出来すぎていて、やや引き込まれるものに欠けている感じもしなくはないが、ポップスとしての完成度は高い。カルロス・バレーラ作の1曲をのぞいてすべて自身の作品。(07年10月号掲載 texto por タニィ)
サンティアゴ・バスケスが主宰の『ラ・ボンバ・デ・ティエンポ(時限爆弾)』は、実験的な即興演奏を繰り広げ、進化し続ける打楽器集団。10数名のメンバーにはリリアナ・エレーロと共に去年来日したマリアノ・カンテーロ、シルビア・イリオンドのバンドメンバーでもあるマリオ・グッソ、著名アーティストと多数共演経験のあるベテラン奏者アレハンドロ・オリーバ等、実力派レギュラー陣を主軸にバスケスが指揮をとる。現地アルゼンチンでは毎週定期ライブを開催、ジャンルを超えた豪華ゲストを招いて音楽的バトルロイヤルといえる刺激的セッションを行っている。カリブ海・中南米の様々なリズムをベースにしたアグレッシブな演奏が特徴。ウルグアイのカンドンベ太鼓3種とジャンベやスルドにパーカッションやトランペット等の演奏に、観客の声援や手拍子、口笛なども一体化させている。本作は7曲全てオリジナルの最新ライブ盤。各曲解説も記載されておりその内容を深く知ることが出来る。演奏はインターネット上で見ることも可能だが、ぜひDVDとしてほしいところだ。(07年10月号掲載 texto por タニィ)
5年ぶりのオリジナル・アルバムは、ラテン音楽の見本市のような内容の力作。ブラジル、キューバ、ペルーなどで発展したアフロ・ミュージックからの影響を見せつつ、タンゴやミロンガで自国のリズムをプレゼン。マガリのパーカッションと、セバスティアンのエレクトリック・ベースによるリズム隊がとにかく腰に来る。アルゼンチン的なフォルクローレ色は少ないが、ラテン・アメリカのフォルクローレ集大成といってもいいだろう。(07年9月号「オーガニック・アルヘンティーナ」掲載 texto por 栗本斉)
The National Film Chamber Orchestra:Fernando Kabusacki、Mono Fontana、Mussa Phelps、Wenchi Lazo、Santiago Vazquez
パブロ・ロドリゲス・ハウレギ(Pablo Rodriguez Jauregui):アルゼンチン、サンタ・フェ生まれの映像作家。テレビ番組や、雑誌編集に協力する傍ら、アニメーションを制作していて、彼の作品はこれまで、以下のような映像祭で上映されてきた。:UNCIPAR (Villa Gessel, Argentina), VIDEOFEST (Berlin, Germany), Festival Der Nationen (Austria), Animateruel (Spain), Fringe Film and Video Festival (England), Rosario Latin American Video Festival (Rosario, Argentina), Video Brasil (San Pablo, Brazil), Annecy, La Habana (Cuba).
モノ・フォンターナの新作も入荷しているので紹介させて下さい。
月刊「ラティーナ」07年2月号掲載 『モノ・フォンターナ/クリーバス(Mono Fontana/Cribas)』 IND MONO001 2520円 98年以来のソロ作品。モノ・フォンターナの弾くピアノの旋律の横で、全く旋律のリズムと関係なく、時計が時を刻むような表情を持たない音が刻まれるTr01。緊張感が走り、“聞き流す”ための音楽ではないという作者の警告が即座に伝わる。フォンタナ所有のピアノをメインにした数台の鍵盤楽器の旋律に環境音が絡む、という静かな前半から、徐々にリズムが現れては消える中盤へ。サンティアゴ・バスケスらの幾人かの協力者の存在が感じられる後半では、快楽的で幻想的な音響装置と化す。 アルゼンチン音響派シーンの中枢にいる人物ながら、本人の精神的理由で来日が実現しないモノ・フォンタナだが、作品の純度は現代音楽の名だたる巨匠を比較対象にしたい程に高い。「この音楽は、選別機を通過するように、抽出されてここにたどり着いた。創作するために生きていることを神に感謝したい」 “創作”に没頭できる彼こそが作り得た必聴作と言いたい。(Texo por 花田勝暁)
ダイレクト・メール紹介作品 ◇MPA:『ALEGRIAS DE A PESO/ARILES DEL QUE SE FUE (アレグリアス・デ・ア・ペソ/アリレス・デル・ケ・セ・フエ)』:2520円 ◇MPA:『ALEJANDRO FRANOV/RIO (アレハンドロ・フラノフ/川)』:2520円 ◇MPA:『ANA PRADA/SOY SOLA (アナ・プラダ/孤独な私)』:2310円 ◇MPA:『ANDRES CALAMARO/MADE IN ARGENTINA (DVD+CD) (アンドレス・カラマロ/メイド・イン・アルヘンティーナ)』:3990円 ◇MPA:『CADENA PERPETUA/LARGAS NOCHES (カデーナ・ペルペトゥア/長い夜たち)』:2520円 【“アルゼンチン盤最新入荷商品[MPA]”の続きを読む】