
月刊ラティーナ2003年9月号では、岸和田仁氏に、同書の書評を書いていただいています。以下、同号よりの引用です。
1990年9月、サンパウロ国際映画祭の会場でマノエル・デ・オリヴェイラ監督の『ノン、あるいは支配の空しい栄光』をみた。ギニア・ビサウと思われる戦地で植民地戦争に従軍している兵士たちが交わす、ポルトガルの戦争史についての議論のなかで、ローマ帝国への抵抗戦、セバスティアン伝説を生み出すこととなる1578年の「アルカセル・キビルの戦い」、そして1970年代に入っても続けられていた時代錯誤的な植民地戦争につて過剰なほど濃密に語られる。オリヴェイラ流儀の植民地政策主義なのだが、評者も隣接のブラジル人観客も洪水のような言葉の連弾い2時間も耳を傾けていて疲れ果ててしまったものの、映画美に酔った記憶だけが残っている。「無声映画時代に映画をとったことのある多分最後の現存する映画作家」と自己規定する、このポルトガル映画界の巨匠は1908年生まれだ。短編映画を含めれば多作にして、最も長期間活躍している映画人であるが、『フランシスカ』、『神曲』、『世界の始まりへの旅』、『クレーブの奥方』、『家宝』などの傑作といえる長編を続々と生み出すようになったのは70歳を過ぎてからである。サラザール独裁体制というポルトガルの政治状況が自由な映画製作を妨げたという事情があるにせよ、この老年パワーはいったいどこからくるのか。80歳になっても仕事への情熱はいささかも衰えず映画の可能性を拡大させるような話題作を連発している。
評者が一番惹かれる作品は、スペイン植民地におけるインディオ奴隷化に反対したラス・カサスと同様にブラジルでのインディオ隷属化反対を主張したが故に異端審問で裁かれたアントニオ・ヴィエイラ神父の一生を描いた『言葉とユートピア』(2000年)である。老年のヴィエイラを演じたのがブラジルの代表的俳優リマ・デュアルチだったので、ブラジルでも大いに話題となったが、この17世紀のヒューマニストをユートピアンととらえるオリヴェイラ監督はこの時82歳だ。
この巨匠のフィルモグラフィス全てが1冊に凝縮された本書を読み進めれば、単にポルトガル映画の豊かさとか面白さといったレベルは雲散霧消し、国境を超えたオリヴェイラ世界の魅力にハマルこと間違いなしだ。実業家兼映画人というアンビヴァレントな監督が快進撃を開始した原因は、74年のカーネーション革命にある、方や映画表現の自由を付与し一方家業を破産せしめたからだ、という仮説を本書で確認できたのも収穫だ。本誌でおなじみの赤坂大輔氏による企画本だが、お薦めの労作である。(月刊ラティーナ2003年9月号より、texto por 岸和田仁)
同書より、マノエルの言葉を引用します。
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映画は芸術表現であり、その限りにおいて、真正さと視野の広さのもとで受けとめられねばならない。他の芸術を例外なく包み込む以上、映画には明らかに規則があるが、それはたいした問題ではない。規則は芸術を、そのもっともよい意味において、ゲームに仕立てあげる。規則がなければゲームも成立しないし、同様に、自然法なしに科学は成り立ちえない。だがその法は可能なかぎりその限界にまで達している。なぜなら、もし法の範囲が越えられてしまえば、事物であり、原因であるという観念を失うおそれがある。映画における言葉の濫用がしきりに宣伝されるが、わたしたちも言葉の濫用について大いに語り、いくつかの場合には、言葉の濫用もまた、いくつもある映画的形式や方式のひとつだとした。だが、正当化されないひどい濫用が頻繁におこなわれ、しかもそれは言葉に限られず、いくつかの映画ではキャメラの動きにまで及んでいる。そのことはけっして話題にならないが、実はキャメラのそうした動きは正当化されえない。実際、大半の場合、それは映画形式の真正さを充分に尊重していないのだ。逆に、キャメラの芸当ときわめて洗練された技術を誇示しているのであり、それらは映画をサーカスの出し物に変えてしまう。(「言葉と映画」マノエル・デ・オリヴェイラ 『マノエル・デ・オリヴェイラと現代ポルトガル映画』エスクァイア・マガジン・ジャパン出版)
今回の受賞に際し、マノエル・デ・オリヴェイラは以下のようなスピーチをしたそうです。(http://www.varietyjapan.com/news/movie/2k1u7d000001syun.html 参照)
「私は一番若いとはいえなくても、まだまだ若い監督の1人だと思っています。私は100年の人生のうちの78年を映画づくりにささげてきました。映画がこれからも存在し、映され、保存されていくことを祈っています。そのことでは、映画の記憶を保存しようとしたシネマテークの創設者アンリ・ラングロワに敬意を表します。ある人が(フェデリコ・)フェリーニに、映画がつくられても人に見せる機会がなくなっていることを嘆くと、それは飛行機をつくって空港をつくらないようなものだと言ったそうです。私はカンヌ映画祭は最も美しい空港だと思います。私はこの歳まで映画をつくってきましたが、映画が私を成長させてくれたのです」
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